第63回ニッコールフォトコンテスト

講評

第1部 モノクローム

 フィルム現像、そして印画紙の現像から定着、水洗と数々の制作プロセスを慎重に行ってできる銀塩モノクロプリントに対して、デジタルカラー画像のモノクロ化は一見しますとそれほど面倒ではありません。例えばクリックひとつで簡単にモノクロ画像が生まれてしまいます。しかしここが案外落とし穴のようで、「彩度を下げる」だけではもちろんのこと、画像処理ソフトで「白黒」と選択しただけで完成するものではありません。かつてのようにマゼンタや緑に色被りしたプリントこそ少なくなりましたが、まだまだ様々なコンテストには、モノクロ写真の豊かな階調を理解しないまま、単にカラー情報を捨てただけで終わりにしている作品も目立つという残念な現状もあるようです。しかしニッコールフォトコンテストには、概ねしっかり制作された作品が応募されてきます。Web応募作品も一度しっかり画像をディスプレイ上で確認し、また補正し応募されていると思われます。みなさんの「オリジナル」作品を目の当たりで見る私たちの関心事は、内容もさることながら、やはり丁寧に仕上げられているか否かというところです。ニッコールフォトコンテストの伝統はそうしてつくり続けられてきました。

 今年度もモノクロ部門に11,071点(プリント8,262点、Web応募2,809点)という応募作品が寄せられたことはうれしい限りです。モノクロならではの表現の素晴らしさの虜になる人々が新たに増えているということでもあり、みなさんがモノクロ作品を決して懐かしく古いものとして携えていないことを内外にアピールしている場とも思えます。入賞作品にはそんな力強い作品が並びました。

 ニッコール大賞の青木竹二郎さんの「火炎の中」は、祭りの説明に終わることなく、人間と「火」の関係を真っ向からとらえた力作です。デジタル画像処理も題材の質感やトーンにこだわリ、微調整を繰り返しモノクロ作品としての質を高めイメージを印象的にまとめています。イラストレーシ ョンのようでもあり、木炭画のような趣も感じさせます。推選の弓場康廣さんの「老漁師」も、印象を的確なフレーミングを通してダイレクトに伝えています。オーソドキシーこそ原点であるようです。また準推選の柏原力さんの「畔道」も、遠目のスナップですが、この位置でなくてはならない必然が強く感じられます。真新しい墓の群れ、間隔を置いて歩く家族、さまざまな私たちの現在がそこから浮かび上がってきそうです。さらに、風水害の怖さを直接伝える岩城治さんの「台風過ぎて」と岡田元章さんの美しい風景「春はあけぼの」の特選2 作は、対称的ながら私たちの「風土」に寄せる想いをしっかり描いています。そしてその合間を縫うように松本アキラさんの「木漏れ日」が示唆する世界には深いものがあります。それぞれ撮るべくして撮った直球の作品でしょう。

 もちろん準特選、入選作にも意欲的で堂々としたモノクロ作品があふれています。そんな作品の中にあったタイトル「誰にも見えない色々なものが、あなたにはみえている」(入選・黒田明臣さん)ではありませんが、モノクロイメージが深く静かに写真を見る人々の心に浸透していくものである ならば、この「時代」というものをしっかり見据えて行こうという私たちの強い意志こそがその表現の源になくてはならないのだと思います。皆さんのさらなる奮闘を期待します。

講評 大西 みつぐ

第2部 カラー

 ニッコールフォトコンテストは毎年のことながら第2部カラーの応募総数は他の部門を圧倒しています。今年度からスライドでの応募が廃止になりましたが、Web応募も定着して増え、応募総数は23,254点で今までの最高となりました。それにも増して目を見張ることは、テーマや表現の多様性です。世界を広く見つめる海外のドキュメントや自然の風景から、日々の営みの記録やお孫さんの写真に至るまで、幅の広さや身近な小さな世界の見方に大変驚かされました。素晴らしい傾向であり、もはやアマチュアのコンテストの域をはっきりと超越しています。特に、アフリカやアジアの決して恵まれてはいない人々に眼を向けたドキュメントには、第60回長岡賞を受賞した大星勇樹さんの流れをくむ、素晴らしい作品が多く見られました。

 そんな膨大な作品の中から栄えあるニッコール大賞に輝いた作品は、志岐利恵子さんの「正月準備」に決まりました。この作品はサロンド・ニッコールの1 席をとった作品でもあり、今さらながら、会報の質の高さに驚かされます。奈良県天理市で年の終わりに村の人々が寺に集まり正月を迎える準備をする恒例行事なのでしょう。古びた寺に冬の陽が当たり輝いて見えます。煙や水面の映り込みなど、それぞれの美しい光と影でドラマを演出しています。高齢化する村の暮らしぶりの一端の記録でもありますが、一枚一枚の作品の完成度が高く、愛情のある眼差しで作品をより高めています。

 推選は清水匡さんの「Study─Pakistan ─」。パキスタンの子どもたちの教育現場の現実を、深い愛情を込めた会心のドキュメントです。近い距離感での撮影は、作者のこの状況を広く伝えたいという一途な想いがほとばしり出ています。しかし、上辺な感情をおさえ、冷静に見つめようとする眼が表現をより確かなものにしています。必死に何かを書く少年の喰いしばった口元が特に印象的でした。

 準推選、吉林真寿美さん「盆のころ」は、のどかな田園風景が広がる農村のお盆の風景です。4 枚組ですが何年にもおよび、延べ7 回も当地に通ったという力作です。まるで村人になったような視点が感じられます。ぜひbisで写真展をしてください。新海すみ子さん「佳き日」の3 枚組には、何かスコンと抜けた爽やかさと韻を踏んだような面白さがあり、とても表現の新鮮さを感じました。

 特選、伊藤久幸さん「猛者」は、ネコ科の動物のポートレートです。剥製かと思えるくらい、一瞬の吠えた表情を上手く捉えています。黒バックなど仕上げの技術も完璧です。斎藤光一さん「記念撮影」は、手前に大きなジンベイザメを配して、後ろにダイバーたちがポーズしているユニークな作品です。セブ島の海のキレイなブルーが印象的です。星川明美さん「豊作を願って」は、収穫した後の畑を焼く、焼き畑農業の様子をドラマチックに捉えています。煙と夕方の空の沈んだ色合いが美しい作品です。西端雅さん「愛のココナッツ」は、18歳らしいタイトルの付け方でとても作品に合っています。表現はとても若々しいですが、光の読み方をはじめ、基本がしっかりとしていることに驚かされました。これからが楽しみです。廣池昌弘さん「海の記憶」は、朽ちた木造船のポートレートといえる作品です。水面の映り込みで、何か生き物の頭部の骨のようにも見えます。表現の新鮮さが眼に留まりました。

 準特選は、小柴立祐さん「インドの列車に揺られて」、堤悠貴さん「0 」、市川和郎さん「裸電球の店」、青木竹二郎さん「Work Space」、橋本浩市さん「孫の思春期」、土肥美帆さん「猫屋敷」、宮崎豊さん「最後のラン」などが、表現の確かさや眼差しの優しさで眼を引きました。

 収穫の多い今年度でしたが、来年はもっと期待しています。

講評 ハナブサ・リュウ

第3部 ネイチャー

 大自然相手のネイチャー作品は足元の生き物から世界の果てまで、美しい地球を駆け巡る皆さまのワールドワイドな行動の軌跡が見えてきます。

 ニッコール大賞、植松利晃さんの「多様性バンザイ」は、体長1.5センチほどのエビの幼虫 (#3)からウナギの稚魚(#1)、10センチほどのテナガタコの仲間(#2)まで、また撮影地も 日本からパラオの海まで、小さな小さな世界の神秘を求めて水中撮影に挑まれました。特にタルマ ワシモドキという甲殻類がクラゲを巣にしている写真(#4)は共存するカタチが電球にも似てい てとても神秘的です。40億年という地球生物誕生の歴史の中でタイトルにもある多様性の存在の 不思議を感じます。

 推選、小野敏明さんの「小休止」もユニークな写真で、ゆったりと泳ぐコイがトンボに気づいて いるかどうかはわかりませんが、ずっしり優雅な印象を受けます。準推選、武田憲幸さんの「蟲譜 三景」は昆虫たちの生きている姿美が、センスある構図の中に配されています。背景の黒の配分量 がバッタやチョウの形を生かすには最良でタイトルも洒落ています。

 特選、市川淳さんの「大東京臨海の群鳥」は都会に飛来する想像を超える渡り鳥の数が圧巻です。 偶然ではなく環境の流れを読み解くなかで年月をかけて出会えた風景は正に努力の賜物だったと思 います。特選、新田学さんの「夕暮れ間近の贈物」は氷の塊をポイントに、撮影の時間帯と露光時 間のタイミングが美しく表現されました。斎藤光一さんの「視線」は半水面で撮影したモルディブ の美しい海とこちらに向かって泳ぐ魚の表情が可愛いです。準特選の作品の中で、宮本悠介さんの 「MONSTERS」は昆虫たちの表情をアップで撮影され、迫力だけではなく性格までもとらえてい るような面白さがあります。アップでとらえた作品でいえば、準特選、田畑寿彦さんの「獣眼」で すが、こちらの作品は動物のもつ威厳と鋭さをモノクロームで表現したことで作者の意図を簡潔に 表すことに成功したと思います。

 今回も、定番の風景や動物写真も多数ありましたが、それぞれに工夫を凝らし新しい表現方法へ の努力と研鑽の成果が出てきていると思いました。同時にカメラ機材の進歩によって水中や天体、 そして昆虫や動物などこれまでは不可能に近かったシャッターチャンスを確実にものにされている と感じました。

 最後に、特にネイチャーの撮影で注意をしていただきたいのが撮影時のマナーです。自欲のため に自然を破壊してまでも撮影を行ったり、絶滅危機のある生き物に対して心無い行為で撮影を行っ たという話も多く聞かされており、このまま進めばやがて撮影ができなくなる可能性も出てきます。 地球は自分だけのものではありません。未来に繋げる人類の財産なのです。昨今の地球温暖化によ る気候変動の影響を受けて生物の様態にも変化が起きてきていることなど、身近な環境から地球規 模に至るまで、人間の行動に対する警鐘も感じながら美しい地球を守る気持ちで撮影をして行きた いものです。

講評 織作 峰子

第4部 U-31

 今年度からニッコールクラブに顧問として就任後、初めてのニッコールフォトコンテストの審査をさせていただきました。そのなかで、第4 部U-31の審査は写真家ハービー・山口さんをゲストにお迎えして行われました。私も、昨年ゲスト審査員として同じくこの部門の審査をやらせていただいたので、2度目の審査となりました。

 U-31とはその名の通り、31歳以下の年齢の方だけが応募できる部門です。つまり全世代のなかでかなり若い方々です。とはいっても15歳くらいの中学生と31歳では倍の年齢の幅があります。 ですので、一言で若者の部門と言い切れないところがあり、それだけにさまざまな種類、価値観の写真が集まり、大変興味深く拝見しました。審査する側の意識が問われるという難しさにもあふれています。例えば技術的には荒削りだが、表現したい気持ちがみなぎっているものを選ぶべきか、技術に裏打ちされた安定感のあるものを選ぶべきか……といったことなどです。

 大賞には井上太志さんの「残された時間」が選ばれました。18歳の男性の作品で曽祖母の姿を撮っています。決して派手な作品でありませんが、ベッドに横たわる曽祖母を丁寧に追っています。モノクロ表現による陰影が、作者との関係、時間の流れ、世代の違いといったものを見る側に静かでありながらも確実に伝えます。なにより心を揺さぶるのは、10代の若者が3世代離れた存在へ向けた愛おしい眼差しです。私には何故だか「母の視線」に似たものを感じました。世代が逆転して、親が我が子をめでながら撮影しているかのような錯覚を抱いたのです。それは、まさに世代を超えた愛の視線かもしれません。

 推選の「お食い初め、大きくなるぞ!」を撮られた深野達也さんの作品はユーモアに溢れる、かつインパクトの強い作品でした。お兄さまのお子さんを撮った作品ですが、コンセプトと技術に裏打ちされているからです。100の数字は誕生して100日目の「お食い初め」を意味しています。同時に100歳までの長寿を願っているようにも映りました。特筆すべきはさまざまな食材を実際に並べていることです。デジタル合成でなく一発撮りです。彩りを含め、よく考えられています。大賞の井上さんとはまったくタイプが違いますが、肉親へ向けられた温かな視線という点において、多いに共通するものがあるように感じられました。表現の仕方は違うが、深いところでは繋がっているはずです。

 準推選の宮田裕介さんの「The Don」という作品は上記の2点とは大きく違います。外に大きく踏み出しています。世界を見るという意識を強く感じます。みずからの力で立つという意思を不思議と写真から感じるのです。決して劇的な瞬間ではありませんが、チベットの高僧を中心とした十数の人の姿が撮られています。それらは日本からは遥か遠く異質なものですが、だからこそ、より結びつきたい、近づきたい、共通項を見つけたいという私的なまなざしが読み取れます。実はそれが揺るがない力になっているのです。

 それは特選の亀谷佳佑さんの「少女イェン」にも共通していえることでしょう。若い世代がここではないどこか、まだ見ぬ世界へ歩みだし、目を向けることは至極当然のことです。そんな姿を拝見して、心強く感じています。

講評 小林 紀晴